「承認待ちで2日経った…」
「ハンコのために出社しないと」
ハンコが非効率とわかっていても、費用対効果やセキュリティを考えるとフローを改善できない人も多いです。そこで脱ハンコのメリットから、依存度チェック、3つの成功事例、失敗しない導入の3ステップ、おすすめツールまで、脱ハンコのロードマップを見ていきましょう。
脱ハンコとは?実現できるメリット
脱ハンコとは、紙の書類に物理的な印鑑を押すという従来の承認プロセスを、電子署名や電子印鑑などのデジタル技術に置き換える取り組みを指します。
政府が2020年に打ち出した「書面・押印・対面原則の撤廃」により、行政手続きの99.4%で押印が廃止されました(※1)。この流れを受けて、民間企業でも急速に脱ハンコが進んでおり、2022年1月には電子契約を利用している企業が69.7%に増えています(※2)。
ただし、一部の企業では「何となく電子化すれば良い」という漠然とした理解にとどまっていることも実情です。脱ハンコで実現できる業務改善は、大きく分けて3つの領域に及びます。
| 領域 | ハンコの課題 | 脱ハンコの効果 |
|---|---|---|
| 時間的改善 | 承認待ちで3~5日の遅延 | リアルタイムでの承認完了 |
| 空間的改善 | 出社必須の承認作業 | 場所を選ばない業務遂行 |
| 経済的改善 | 印刷・郵送・保管コスト | 年間数十万~数百万円の削減 |
※1 内閣府「第二章 国の押印見直しに係る取組」
※2 一般社団法人 日本情報システム・ユーザー協会「企業IT動向調査報告書 2022」
メリット1. 承認スピードの向上
従来の紙ベースの承認プロセスでは、書類が各承認者の手元に届くまでに平均1~2営業日かかっていました。部長が出張中なら1週間待ち、役員の承認となればさらに時間を要するという状況は、多くの企業で日常的に発生しています。
脱ハンコを実現すると、承認プロセスが最短数分で完了するようになります。電子決裁システムを導入した企業の調査では、承認完了までの平均時間が従来の120時間から8時間に短縮されたケースが報告されています。
メリット2. リモートワークの完全な実現
「テレワークを推進したいが、結局ハンコのために週1回は出社している」という声は、今でも一部の企業から聞かれます。総務省の調査によれば、テレワーク実施企業の「押印・書類処理」を理由に完全在宅勤務を実現できていないという結果も出ています。
脱ハンコは、このようなハンコ出社を完全になくし、真の意味でのリモートワークを可能にします。電子契約システムやクラウド型ワークフローシステムを導入することで、以下のような波及効果が生まれます。
リモートワークの波及効果
- 地理的制約なく全国から人材採用が可能になる
- 通勤時間ゼロでワークライフバランスが向上する
- 従業員満足度が向上し、離職率が低下する
- 災害時でも業務継続が強化される
- 固定席を減るためにオフィスコストの削減される
メリット3. 直接的なコスト削減
コスト面でも大幅な改善が見込めます。具体的な削減項目を見てみましょう。
コストの具体的な削減例
- 印刷費用(A4用紙1枚約2円×年間10万枚=20万円)
- インク・トナー代(年間約20万円)
- 郵送費(速達・書留含め年間約50万円)
- 印鑑購入・管理費(年間約6万円)
- 書類保管スペース賃料(月2万円×12ヶ月=24万円)
これらを合計すると、中小企業でも年間120万円以上のコスト削減が可能です。さらに、承認待ちによる機会損失や押印のための移動時間、書類を探す時間といった見えないコストを含めると、その経済効果は計り知れません。
ハンコへの依存度チェックリスト
自社がどの程度紙に依存しているか、客観的に把握することが脱紙の第一歩です。以下のチェックリストで、現在の紙依存度を確認してみましょう。スコア11~15点は危険度「中」、スコア16点以上は危険度「高」です。
| 診断項目 | 想定されるリスク |
|---|---|
| 契約書の締結に1週間以上かかることがある | 中(ビジネスの遅延・機会損失) |
| 承認者の出張や休暇で業務が停滞したことがある | 高(属人化による業務停止・ボトルネック化) |
| 印鑑の紛失や盗難のリスクを感じたことがある | 高(セキュリティリスク・不正利用の危険性) |
| 書類の保管場所に困っている | 低(物理的なスペースの問題・管理コスト増) |
| 過去の契約書を探すのに30分以上かかる | 中(生産性の著しい低下・時間的コスト増) |
| リモートワーク中でも押印のために出社している | 中(非効率な働き方・従業員満足度の低下) |
| 取引先から「もっと早く契約を進められないか」と言われた | 高(対外的な信頼失墜・ビジネス機会の損失) |
| 印鑑管理規程が形骸化している | 高(内部統制の不備・コンプライアンス違反) |
| 電子契約を導入している競合他社がある | 低(市場競争力の相対的な低下) |
| 月に100枚以上の書類に押印している | 中(単純作業による業務時間の圧迫) |
脱ハンコの成功事例3選
CASE1. プラント工事における佐々木プラントの事例

北海道から全国へ事業展開する株式会社佐々木プラントは、業務管理システムを導入し、紙とExcelベースの管理体制から脱却することで、脱ハンコによる業務効率化と現場のデジタル化を実現しています。このシステムの特徴は以下のとおりです。
| 特徴 | 活用方法 | 効果 |
|---|---|---|
| 電子完成報告書 | スマホで現場でお客様の電子サイン取得 | 紙の報告書忘れによる現場への再訪問を完全解消 |
| クラウド図面管理 | 図面データをシステム上で共有・閲覧 | 紙の図面受け取りのための事務所往復が不要に |
| 帳票フォーマット統一 | 見積書から請求書まで一貫したデジタル帳票作成 | 転記作業の削減と業務品質の標準化 |
| モバイル対応 | 携帯端末から各種書類の作成・承認が可能 | 出張先でも書類作成・決裁が完結 |
大阪営業所を含む全国拠点では、電子サインの導入により完成報告書の紙忘れによる現場再訪問がゼロになり、移動時間と交通費を大幅に削減しました。さらに、図面の紙コピーや手渡しが不要となり、現場作業員の生産性が飛躍的に向上しています。
プラント工事事業の変革事例
- 完成報告書への電子サイン導入により、紙の持参忘れによる現場再訪問を完全解消
- 図面の電子共有により、事務所での紙の受け渡しのための往復移動が不要に
- 見積書や請求書のデジタル化により、紙ベースの転記作業から解放
- LINEグループから案件別のデジタル管理へ移行し、紙の資料探しが不要に
CASE2. 精密機器製造における中小企業の事例
従業員500名の精密機器メーカーでは、クラウド型電子契約システムを導入し、月間約200件の取引先との契約処理において、脱ハンコによる大幅な業務効率化と事業基盤の変革を実現しています。
| 特徴 | 活用方法 | 効果 |
|---|---|---|
| 電子署名機能 | 物理的な印鑑を電子署名に置き換え | 印鑑管理者不在による2~3日の遅延を解消 |
| クラウド契約管理 | 契約書の郵送を電子化 | 郵送往復5~7日を即日処理に短縮 |
| ワークフロー自動化 | 内部承認プロセスをシステム化 | 承認期間を3~5日から即日に短縮 |
| リアルタイム契約状況確認 | 全ての契約進捗を可視化 | 契約書の不備による差し戻しを月15件から2件に削減 |
システム導入からわずか6ヶ月で、契約締結までの平均日数を10日から3日へと70%削減し、年間180万円の郵送コストを完全にゼロにしました。
精密機器製造事業の変革事例
- 物理的な印鑑管理から解放され、管理者不在時の業務停滞を完全に解消
- 契約書の郵送プロセスを廃止し、5~7日かかっていた処理を即日完了
- 営業部門の残業時間を月平均45時間から28時間に削減し、働き方改革を実現
- スピーディーな契約処理により営業成約率が15%向上し、競合他社への案件流出を防止
CASE3. 建設業における中堅建設会社の事例
従業員200名の中堅建設会社は、電子承認システムを導入し、全国15ヶ所の建設現場と本社間の書類処理における脱ハンコを実現することで、業務基盤を大幅に変革しました。このシステムの特徴は以下のとおりです。
| 特徴 | 活用方法 | 効果 |
|---|---|---|
| スマホ対応 | 現場から直接申請・承認を実施 | 書類送付時間を2~3日から即時に短縮 |
| 電子承認機能 | 紙の申請書を完全デジタル化 | 資材発注承認を48時間から2時間に短縮 |
| リアルタイム処理 | 現場からの報告書を即座に処理 | 現場監督の事務作業を週10時間から3時間に削減 |
| 全社統合管理 | 15ヶ所の現場情報を一元管理 | 書類紛失によるトラブルを年6件から0件に削減 |
導入から3ヶ月で完全移行を達成し、工事の完成遅延が減少し、迅速な意思決定により予定通りの工事完成が可能となりました。全社的な教育プログラムの実施により、現場の監督や作業員も含めたスムーズな移行を実現しています。
建設事業の変革事例
- 緊急の資材発注承認の遅れによる工事遅延が解消され、工事進捗が大幅に改善
- 現場監督が書類作成のために事務所に戻る必要がなくなり、現場管理に専念可能
- 工事遅延の発生率が月3件から月0.5件に減少し、納期遵守率が向上
- 顧客満足度と企業信頼度の大幅な向上により、受注機会が拡大
失敗しない脱ハンコ導入3ステップ
STEP1. 対象業務の洗い出しと目標設定
脱ハンコの第一歩は、現状把握です。すべての押印業務を1度に電子化するのではなく、現場の状況を組みとり、優先度を付けてから進めます。
現状把握の手順
- 1ヶ月間の「押印記録シート」を作成します。
- 各部署で「書類の種類、月間の処理件数、承認にかかる平均時間、法的要件の有無、取引先の対応可否」といった記録を取ります。
- 押印記録シートを基に、優先度を付けます。
優先度は、稟議申請のように「難度が低い×承認数が多い」を最優先としましょう。毎月の申請数が数百あり、切り替えは簡単であるため、インパクトが大きいです。次に契約書のように「難度が高い×承認数が少ない」は段階的に切り替えていきます。
| 承認数が多い | 承認数が少ない | |
|---|---|---|
| 難度が低い | 〇最優先(稟議申請など) | △後回し(採用書類など) |
| 難度が高い | △段階的(契約書など) | ✕対象外 |
目標設定をするときは「承認時間を○%短縮する」「コストを年間○万円削減する」とします。このような明確な目標があることで、導入後の効果測定も容易になります。
STEP2. 法的要件の確認と社内規定整備
脱ハンコで最も慎重になるべきは、法的な有効性の確保です。2001年に施行された「電子署名法」により、電子署名も法的に有効となりましたが、すべての書類が対象となるわけではありません。
以下の書類は紙での作成が法律で義務付けられているため、現時点では電子化できません。
- 事業用定期借地権設定契約書
- 任意後見契約書
- 訪問販売等で交付する書面(一部)
次に電子化可能な書類でも、電子署名法の要件を満たす必要があります。
- 署名者が本人であることの証明
- 署名後に内容が変更されていない非改ざん性の確保
そのため、多くの企業では電子認証局が発行する電子証明書を利用しています。特に重要なのは、取引先への説明資料の準備です。法的根拠や安全性について、分かりやすく説明できる資料を用意しておくことで、スムーズな移行が可能になります。
STEP3. 関係部署への説明と合意形成
最後のステップは、社内外のステークホルダーとの合意形成です。どんなに優れたシステムを導入しても、使う人の理解と協力がなければ成功しません。部署別に説明会を実施し、それぞれの立場に応じたメリットを強調します。
| 部門 | 説明する例 |
|---|---|
| 営業部 | 契約スピードアップによる成約率向上 |
| 経理部 | 請求書処理の効率化と残業削減 |
| 総務部 | 書類保管スペースの削減 |
| 管理職 | どこからでも承認可能な利便性 |
説明会では、実際のデモンストレーションを行い、操作の簡単さを体感してもらうことが重要です。また、移行期間中は紙と電子の併用期間を設け、段階的に電子化率を高めていく方法が効果的です。
また、取引先向けには、無料トライアル期間を設けることも有効です。実際に使ってもらうことで、利便性を実感してもらえます。
脱ハンコにおすすめのサービス
サービス1. 中小企業向けの電子契約システム
従業員50名以下の中小企業にとって、高額な初期投資は大きな負担となります。そこで重視すべきは、月額料金の安さと導入の手軽さです。
料金重視のときのチェック項目
- 初期費用0円
- 月額1万円以下の基本料金
- 従量課金制(使った分だけ支払い)
- 無料トライアル期間あり
- 日本語サポート充実
例えば「マネーフォワードクラウド契約」は法人向けが月2,480円(税抜)から利用できます。
また、中小企業の場合、まず社内文書から電子化を始めることをおすすめします。社内文書なら取引先との調整が不要で、効果もすぐに実感できます。
サービス2. 中堅・大企業向けの電子契約システム
中堅・大企業では、すでに基幹システムやCRM、ERPなどが稼働しているケースが大半です。このような企業では、既存システムとの連携の充実度が最重要ポイントとなります。
既存システムとの連携で重視する機能
- 基幹システムから受発注データを自動で取り込める
- CRMの顧客情報と契約情報を一元管理できる
- 会計システムとの連携して、請求書データの自動転記できる
- ワークフローシステムとの連携して、承認フローの自動化できる
- 文書管理システムとの連携して、契約書を自動保管できる
例えば「クラウドサイン」や「freeeサイン」は統合型の法務サービスであり、システム連携はもちろん、一括送信機能やテンプレート機能も備わっています。
また、セキュリティ面では「ISO27001認証取得、IPアドレス制限機能、二要素認証対応、監査ログの長期保管」の要件を満たすことが必須です。
サービス3. 全業務をつなぐオールインワンシステム

プロワンは、営業・現場・経営に必要な全機能を1つのプラットフォームで提供し、紙、Excel、メールでの情報共有から脱却することで、一気通貫のデータ連携を実現します。