「ベテランの退職が迫っているが、技術継承者がいない」
「人手不足が慢性化している」
AI導入で改善できることから、製造業での具体的な成功事例、導入までのステップ、製造業におすすめのAIサービスまで、現場の課題を解決するための現実的な道筋を一つずつ見ていきましょう。
CONTENTS
製造業のAI活用とは?改善できること
製造業のAI活用は、単なる作業の機械化やロボット導入とは異なり、人間が担っていた判断業務を自動化・高度化する取り組みです。画像認識や音響分析、データ予測といったAI技術を工場の生産ラインや設備管理に組み込むことで、製造現場の課題を解決します。AIによって改善できる代表的な課題は、主に5つです。
| 領域 | 改善できること | 期待される効果 |
|---|---|---|
| 1. 品質管理 | 画像AIによる外観検査の自動化 | 検査時間の短縮、見逃し率の低減 |
| 2. 技能継承 | 熟練工の判断基準をモデル化 | 属人化の解消、品質の均一化 |
| 3. 予知保全 | センサーデータから故障予兆を検知 | ダウンタイムの削減、保全コストの最適化 |
| 4. 生産計画 | 需要予測と工程最適化の自動化 | リードタイムの短縮、過剰在庫や欠品リスク削減 |
| 5. 開発支援 | データ学習で設計の最適化 | 開発期間の短縮、試作コスト削減 |
1. 品質管理
人間による検査では、検査員の熟練度や疲労によって検出精度にばらつきが生じます。この「人による揺らぎ」が、品質の不安定化につながっていました。AIを導入することで、微細な不良も見逃さず、同じ基準で安定した検査を継続可能です。導入の初期投資は必要ですが、中長期で見れば検査工程の人員を削減できます。
2. 技能継承
製造業では、ベテランの退職による暗黙知の喪失と、少子高齢化に伴う人手不足が深刻な課題です。AIは、マニュアル化が難しかった熟練者の判断プロセスをデータ化することで、組織の資産として技術を継承させます。人手不足と技術伝承という2つの難題を解決できる点が、AI導入の大きな効果です。
3. 予知保全
従来の定期保全では、まだ使える部品を交換したり、故障の予兆を見逃す問題がありました。AIを活用した予知保全は、センサーから収集される振動・温度・電流などのデータをリアルタイムで分析し、異常の予兆を検知します。主なメリットは以下の通りです。
予知保全のメリット
- 故障前に計画的な部品交換・修理を行い、ダウンタイムを削減
- 必要な時期・箇所だけのメンテナンスで保全コストを最適化
- 異常の早期発見・対処により設備寿命を延長
4. 生産計画
多品種少量生産が主流の現代、生産計画は複雑化しています。AIは受注・在庫・設備稼働・人員配置などのデータを分析し、最適な生産スケジュールを数分で立案。急な変更にも自動で再最適化できます。また、販売データや市場トレンドから高精度な需要予測を行い、在庫の過不足防止やキャッシュフロー改善を実現します。
5. 開発支援
設計では膨大な試作が必要で、大型投資は意思決定に時間がかかる課題がありました。AIは過去データから最適なパラメータを短時間で導出し、試作回数と開発コストを削減。デジタルツインと組み合わせれば、設備導入前にROIをシミュレーションでき、投資リスクも低減できます。
製造業のAI改善効果チェック
自社の現場がAIを必要としているのか、迷うケースは少なくありません。以下のチェックリストに当てはまる項目が多いほど、AI導入による効果が期待できます。
| 診断項目 | リスクレベル |
|---|---|
| 熟練作業者の退職が近く、技術伝承に不安がある | 高(暗黙知のデジタル化が急務です) |
| 検査工程で不良品の見逃しや過検出が頻発している | 高(判定基準の属人化が課題となっています) |
| 設備の突発故障によるライン停止が年に数回以上発生している | 高(予知保全の仕組みが不足しています) |
| 人手不足で新規ラインの立ち上げや増産対応が困難 | 中(自動化による省人化が求められています) |
| 品質データを紙やExcelで管理しており、分析に時間がかかる | 中(データ活用基盤の整備が必要です) |
| 顧客から品質安定や検査記録の開示を求められている | 中(トレーサビリティ強化が求められています) |
| 競合他社がAI導入を進めており、競争力の低下を懸念している | 低(先行事例を参考にした迅速な対応が重要です) |
| 現場のベテランにしか判断できないブラックボックス工程がある | 高(特定個人への依存による生産停止リスク) |
| 多品種少量生産への切り替え(段取り)に時間がかかっている | 中(最適化アルゴリズムによる稼働率向上) |
| 電力消費や原材料の投入量の最適解が経験則で決まっている | 低(エネルギーコスト削減の余地があります) |
製造業のAI活用事例3選
CASE1. 品質検査の自動化と人手不足解消

熟練工の技術を自動化し、24時間再現可能にした品質管理のAI活用事例です。微細なキズを検出する自動車部品の品質検査は熟練工の「目」に頼る部分が多く、人手不足や技能継承が課題でした。特に微細な傷の判定基準を言語化するのが困難でした。
| 導入ステップ | 内容 |
|---|---|
| パートナー選定とトライアルの実施 | 展示会等で数十社のAIソリューションを比較検討 |
| 現場とAIの共同育成 | 検査工程の従業員から声を集め、膨大な画像データを用意 データの分類方法や学習手法をSEと何度もミーティングして改善 |
| 部内への啓蒙活動と本稼働 | システム構築と並行して、部内で「AIとは何か」を正しく認識してもらうための啓蒙活動を実施 |
成果
- 見逃し率0%、過検出率8%を達成し、検査精度を大きく向上
- 二交代勤務で計4名必要だった検査員を、2名に削減
- 専門知識がなくても操作できるUIにより、現場に違和感なく導入
※ トヨタ自動車|Deep Learningの専門知識を有するシーイーシーと二人三脚でAIを育て上げることに成功
CASE2. プラント運転監視の自動化と異常予兆

プラントの安定稼働と技能伝承を同時に成し遂げた、異常予兆のAI活用事例です。設備の高経年化、人財の高齢化、技術伝承を含め、複雑な複数工程の同時監視による現場の負荷増大が課題となっていました。
| 導入ステップ | 内容 |
|---|---|
| ターゲット工程の選定 | 多品種で運転パターンが複雑だった工程を対象に |
| 製造現場の運転データ解析 | 高度な解析技術を用いて「正常な状態」と「異常の予兆」を定義 |
| 運転監視の自動化・検知システムの構築 | AIがリアルタイムでプラントの状態を監視、異常が起きる前にアラートを出すシステムを構築 |
成果
- ベテランの経験に頼っていた監視業務を標準化
- 監視の自動化により、少人数でも現場が回るように
- 信頼性の高い検知により、トラブルを未然に防ぎ、製造技術の伝承を加速
※ 花王|先進的AI技術を導入したプラントの異常予兆検知の取り組み
CASE3. 生産計画の自動化とベテランの技術継承

熟練者の経験に基づく思考プロセスをAIで可視化・自動化し、計画系業務を効率化したAI活用事例です。約50品目の商品の生産・輸送・在庫の組み合わせは200万通りにも及び、高精度な需要予測や最適な生産・輸送・在庫計画の立案は至難の業でした。
| ステップ | 内容 |
|---|---|
| 制約条件の洗い出し | 生産能力、輸送ルート、倉庫容量など40以上の制約を細かく整理 |
| 熟練者のノウハウ抽出 | 計画立案時に熟練者が「何を優先し、どう判断しているか」という思考プロセスを言語化 |
| AIモデルへの実装 | 数理最適化技術を使い、制約と熟練者のノウハウを組み合わせAIシステムを構築 |
成果
- 計画立案にかかる時間を約70%削減
- 誰でも迅速に質の高い計画立案ができる
- 季節変動などにより左右される需要変動に対して柔軟な計画修正が可能に
※ ニチレイフーズ|生産・輸送・在庫計画の立案業務をAIシステム開発により自動化
製造業がAIを導入する4ステップ
STEP1. 領域と課題を絞りこむ
課題が明確で、かつ判定基準が比較的シンプルな領域を1つ選び、そこに絞って導入を検討しましょう。例えば、「製品Xの表面検査だけ」といった限定的な範囲で概念実証を行います。検査工程や設備監視など、比較的データが整っており、成果を数値で示しやすい領域から始めるのが得策です。
課題選定の流れ
- 現場の声を丁寧に拾い、作業担当者が日々感じている困りごとを洗い出す
- 「品質が不安定」という漠然とした課題ではなく、定量的なデータの裏付けをとる
- 作業手順の標準化や設備の物理的な改善で解決できないか、AI適用の妥当性を検討
STEP2. 学習用データを整備する
AIの精度は、学習させるデータの質と量で決まります。画像AIなら合格品と不良品の画像、予知保全なら設備のセンサーログと故障履歴、需要予測なら販売実績データといった形です。データ整備で注意すべきポイントは以下の通りです。
データ整備のポイント
- AIの精度はデータ量に比例するため、最低でも数百件以上のデータ量を確保する
- 不正確なデータはAIの誤学習につながるため、データの品質を担保する
- 偏ったデータではAIの汎用性が失われるため、さまざまな条件下のデータを揃える
STEP3. 実証実験で費用対効果を検証する
特定の工程や設備に絞った小規模PoC(実証実験)を実施し、費用対効果を検証しましょう。PoCの目的は、AIが期待通りの精度を出せるか、現場の運用に適合するか、投資に見合うリターンが得られるかを確認することです。以下の指標で効果を測定します。
| 評価項目 | 測定指標の例 |
|---|---|
| 精度 | 検査の正答率、予測の的中率 |
| 効率 | 作業時間の短縮率、人員削減数 |
| 品質 | 不良率の低減、クレーム件数の減少 |
| コスト | 導入費用と削減コストの比較 |
STEP4. 現場運用への組み込みと組織展開
本格的な現場運用の段階で重要なのは、AIを既存の業務プロセスに自然に組み込むことです。どのような場面でAIを活用し、どう判断すればよいのかをルールを設けることが、スムーズな定着につながります。AI活用は導入して終わりではなく、定期的に効果測定を行い、改善を重ねていきましょう。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| AIの判定結果をどう扱うか | 最終的に人が確認するのか、AIの判定のみ信頼するのか、明確な基準を定める |
| フィードバック体制の構築 | AIの判定が誤っていた場合の学習データを追加し、精度を向上させる |
| データの更新と再学習の頻度 | 定期的にデータを更新し、モデルを再学習させる体制を構築 |
| トラブル発生時のエスカレーションルート | AIシステムにトラブルが発生した場合の連絡先と対応手順を明確にする |
製造業におすすめのAIサービス15製品
1. 外観検査AI

製品の傷、汚れ、寸法異常などを画像認識で検出するAIです。製造業で最もニーズの高い外観検査には、業界特化型のパッケージ製品が多数提供されています。少量のサンプル画像でも学習できる「少量データ対応」のソリューションも登場しており、導入ハードルが下がっています。
| サービス名 | 提供企業 | 特徴 |
|---|---|---|
| メキメキバイト | フツパー | 製造業特化のエッジAI。中小企業でも導入しやすい価格設定。開発から導入、アフターサービスまでワンストップ対応 |
| SearchMaru | フューチャーアーティザン | ノーコードで検査・学習モデルを作成可能。ITの知識がなくても運用でき、半導体ウエハにも対応 |
| MMEye | YE DIGITAL | 使えば使うほど賢くなる独自AI「Paradigm」搭載。食品系の異物検知に強み。エッジAI端末でリアルタイム判定 |
| gLupe | 日立ソリューションズ | 数十枚の正常データのみで学習可能。学習時間も数秒で完了する手軽さが特徴 |
※ 2026年2月時点
2. 生産スケジューラAI

受注・製造・購買を紐づけ、在庫削減やリードタイム短縮を実現する生産計画AIです。従来はベテラン担当者が数時間かけて作成していた計画を、AIが数分で自動立案します。SaaS型のサービスも増え、月額数万円から導入できるため、中小企業でも手軽に始められるようになっています。
| サービス名 | 提供企業 | 特徴 |
|---|---|---|
| Asprova | アスプローバ | 国内トップシェアの生産スケジューラ。豊富な標準機能と利便性を高めるオプション機能で自社の課題を解決できる。国内外で3,000本以上の導入実績 |
| 最適ワークス | スカイディスク | SaaS型で月額15万円から導入可能。AIが1分で生産計画を自動立案。専門知識不要で誰でも操作でき、中小企業での導入実績も豊富 |
| FLEXSCHE | フレクシェ | 20年以上の知見を持つ高機能スケジューラ。高速処理と柔軟なカスタマイズ性が強み |
| Seiryu | テクノア | 多品種少量生産向け。機械の負荷状況に基づき適切な機械を自動割当。急なスケジュール変更にも対応 |
※ 2026年2月時点
3. 予知保全・異常検知AI

設備の故障予兆を検知し、計画的なメンテナンスを実現するAIサービスです。設備を新規導入する余裕がない場合でも、既存設備に後付けできるセンサーとAIを組み合わせた予知保全サービスもあります。振動センサーや温度センサーを設備に取り付け、クラウド経由でデータを収集・分析。AIが異常予兆を検知すると、スマートフォンやPCにアラートが届く仕組みです。
| サービス名 | 提供企業 | 特徴 |
|---|---|---|
| Impulse | ブレインズテクノロジー | 遠隔設備の異常検知に実績。機器の長寿命化と突発停止の回数減少を実現 |
| Melon 異常検知AI | メロン | IoTセンサーデータやPLCの稼働ログから故障予兆を検知。サイバーセキュリティにも活用可能 |
| dotData | dotData | 特徴量自動設計で現場担当者でも分析可能。横浜ゴム、キリンビールなど大手製造業での導入実績 |
※ 2026年2月時点
4. 製造業特化の生成AI

自社の技術文書やベテランの知見を学習させ、実務に活用できる製造業特化の生成AIサービスです。技術承継や設計工数削減といった製造業固有の課題解決に直結します。一般的な生成AIでは、製造現場特有の専門用語やルールを正確に理解できないケースや、機密情報の漏洩リスクが懸念されます。法人向けサービスでは、入力データがAI学習に使われない設計やアクセス権限管理など、企業のコンプライアンス要件を満たしています。
| サービス名 | 提供企業 | 特徴 |
|---|---|---|
| 工/Takumi | 燈株式会社 | 熟練工の思考プロセスや日報、図面を学習。現場の「暗黙知」をデジタル化し、若手への技術伝達をAIが代行 |
| Tagutto | 株式会社ミラリンク | 過去の設計資産や不具合事例の検索に特化。設計者の問いに対し、過去の膨大な資料から即座に回答し、設計・開発を効率化 |
| koto-Buddy | オムロン株式会社 | 月額900円から利用可能。ChatGPT/Gemini/Claude社内ルールやマニュアルをセキュアに学習し、日々の改善活動に寄与 |
| exaBase 生成AI | 株式会社エクサウィザーズ | 製造業向けのRAG構築に定評があり、企業全体の情報資産活用に強み。数万ページの仕様書や技術文書を高速で検索・要約 |
※ 2026年2月時点
製造業のAI化を成功させる3つのポイント
1. 課題起点でAIを導入する
自社の課題を明確にし、その解決手段としてAIが最適かどうかを見極めましょう。よくある失敗パターンは「AIを導入すること」自体が目的化してしまい、解決すべき課題が曖昧なまま進めてしまうケースです。解決すべき課題と期待する効果を具体的に定義し、課題起点で提案・設計することが、失敗リスクを最小化する鍵となります。
2. 伴走してくれるベンダーを選定する
単にソフトを納品して終わりではなく、「照明の当て方」や「カメラの設置位置」といったハードウェアの調整から、現場オペレーターへの操作指導など、運用定着まで伴走してくれるパートナーを選びましょう。トラブル時に迅速に対応してくれるサポート体制があるかどうかも重要です。チェックしたいポイントをは以下です。
| チェックポイント | 確認すべき内容 |
|---|---|
| 製造業の知見があるか | AIの技術力だけでなく、製造業特有の課題や現場を理解しているか。製造業での導入実績が豊富であれば、現場に即した提案が期待できる |
| PoCから本格導入まで一貫支援できるか | 実証実験だけで終わらず、本格導入・運用・改善まで伴走してくれるか。「費用対効果がなかった」「導入後に使いこなせない」を防げる |
| 導入後のサポート体制が充実しているか | 運用開始後のトラブル対応、モデルの再学習、機能追加など、長期的なサポート体制が整っているか |
3. AI人材を確保・育成する
AI導入・運用には、データ分析やシステム連携を担える人材が不可欠です。外部からの採用だけでなく、社内人材の育成も並行して進めましょう。座学より実践を重視し、実際のプロジェクトを通じてスキルを習得させるアプローチが効果的です。専門知識がなくても現場担当者が分析できる文化を醸成することで、AI活用が組織全体に定着しやすくなります。
